私たちは日々、さまざまな出来事の中で生きています。
人との関係、社会の常識、自分自身の思い込み。
知らず知らずのうちに、何かを正しいと信じ、何かを否定し、自分の中にいくつもの答えをつくり上げているのかもしれません。
けれど、その答えは、本当に自分自身のものなのでしょうか。
忙しさの中で、いつの間にか遠くなってしまった自分自身の声。
誰かの期待や、正しさの向こう側に置き忘れた、小さな本音。
それをもう一度聴くために、3つの問いを結びました。
すべての問いに答える必要はありません。
ただ、心に引っかかった問いがあるなら、その場所に少しだけとどまってみる。
すぐに答えが見つからなくてもいい。
問いを抱えたまま、静かに過ごす時間があってもいい。
答えは、杖の中ではなく、あなたの中にあるのだから。
当たり前を、もう一度問い直す
「当たり前だと思っていることを、もう一度問い直せるだろうか?」
今回の魔法の杖は、そんな問いから生まれました。
これまで信じてきた正しさも、誰かから教わった価値観も、それが自分にとって本当に必要なものなのか、立ち止まって考えてみる。
何かを否定するためではなく、まだ知らなかった自分自身に出会うために。
この杖は、願いを叶えてくれる魔法の道具ではありません。
けれど、日常の中でふと立ち止まり、自分自身と対話するきっかけにはなるかもしれません。
黒いクリスタルと、薔薇色のコバルトカルサイト。
第一章|なぜ黒いクリスタルを選んだのか
そして、ひと結びずつ重ねていくオラクルノット。
それぞれの素材に込めた意味と、制作の過程を、これから少しずつ綴っていきます。
先端の結晶|ザンビア産スモーキークォーツ
杖の先端に選んだのは、ザンビア産のスモーキークォーツ。
長さ約11cmという、存在感のある大きな水晶ポイントです。
淡く煙をまとったような透明感を持ち、結晶の内部には、長い年月をかけて自然がつくり出した複雑な景色が広がっています。
特に印象的なのは、先端付近に見られる、ブラックトルマリンを思わせる黒色の柱状結晶です。
その鉱物が何であるかは、まだわかっていません。
けれど、水晶の中に異なる鉱物が存在するその姿に、私はどこか「受け入れること」の意味を重ねました。
透明な部分だけが美しいわけではない。
異なるものを抱えているからこそ、生まれる景色もある。
私たちもまた、自分の中にさまざまな感情や矛盾を抱えながら生きています。
弱さも、迷いも、ときには認めたくない感情も。
それらを無理に取り除こうとするのではなく、まずは、そこにあることを認めてみる。
この水晶の姿は、そんなことを静かに問いかけているように感じられました。
クリスタルは問いかけます。
「自分と異なるもの、理解できないものを、否定せずに抱えていられるだろうか」
後方のマル玉は力強いペルー産トルマリンの結晶構造をそのまま残した丸玉。
漆黒に流れる石英の白いラインが印象的です。
薔薇色の結晶|コバルトカルサイト
黒い鉱物を抱えたスモーキークォーツとは対照的に、杖の装飾には、モロッコ産の薔薇色のコバルトカルサイトを選びました。
鮮やかなピンク色の結晶に、幾重にも重なる白い模様。
ところどころには、黒い内包物や自然が残した複雑な表情も見られます。
コバルトカルサイトは、比較的柔らかく、繊細な鉱物です。
強い衝撃に耐えられるような、丈夫な石ではありません。
けれど、その繊細さこそが、この石の魅力でもあるように思います。
私たちは、大切な人を守りたいと願います。
傷ついてほしくない。
間違った道を選んでほしくない。
幸せになってほしい。
そんな思いから、つい自分の考える正しさを伝えようとすることがあります。
けれど、その正しさは、本当に相手にとっての正しさなのでしょうか。
自分が幸せだと感じる場所が、相手にとっても幸せな場所とは限りません。
愛することは、相手を自分の思いどおりに変えることではない。
相手が自分とは違う考えを持ち、違う道を選ぶ自由を認めることも、愛情のひとつなのかもしれません。
そして、それは自分自身に対しても同じこと。
誰かの期待に応えるために、自分を変え続ける必要はないのです。
この薔薇色の結晶を見つめながら、二つ目の問いが生まれました。
「わたしは、愛する人を自分の思いどおりにしようとしていない?」
この問いには、誰かを責めるための答えはありません。
ただ、自分の愛情の中にある優しさも、恐れも、執着も、静かに見つめてみる。
そして、相手を信頼することと、自分自身を信頼すること。
その両方を忘れないために。
繊細な薔薇色の結晶を、ひと結び、ひと結び、オラクルノットで包んでいきます。
第一の問い|私は、何を否定しているのか?
ここから、3つの問いをオラクルノットで記していきます。
最初の問いは、
「私は、何を否定しているのか?」
私たちは日々、何かを選び、何かを遠ざけながら生きています。
好きなものと嫌いなもの。
正しいと思うことと、間違っていると思うこと。
そして、自分の中にも、認めたい部分と、できれば見たくない部分があるのかもしれません。
けれど、否定しているものの中には、まだ理解できていないだけのものもあるのではないでしょうか。
誰かの考え方。
自分の中に生まれた怒りや嫉妬、恐れ。
過去の失敗や、思いどおりにならなかった出来事。
それらをすぐに変えようとしたり、消そうとしたりする前に、ただ、その存在を認めてみる。
受け入れることは、必ずしも賛成することではありません。
理解できなくても、そこにあることを認めることはできる。
そして、何かを否定している自分自身さえも、責める必要はないのかもしれません。
そんな思いを、一つひとつの結び目に込めていきます。
結び目が重なり、やがてひとつの模様になるように。
自分の中にあるさまざまな感情や経験も、すべてが今の自分を形づくっている。
私は、何を否定しているのか?
答えを出すためではなく、その問いとともに、静かに結んでいきます。
カードには「折りたたむというカード」がでてきています。
制作していくうちに力強いこんな形になってきました。
受け入れることは、必ずしも賛成することではありません
第二の問い|私は、愛する人を自分の思いどおりにしようとしていない?
愛することと、相手を自分の思いどおりにしようとすることの違い。
それは、「結ぶこと」と「縛ること」の違いにも似ているのかもしれません。
結ぶことは、異なるもの同士をつなぎ、支え合い、新しい形を生み出すこと。
一方、縛ることは、相手の動きを制限し、自分の望む場所にとどめようとすること。
同じ一本の紐でも、その使い方によって、まったく異なる意味を持ちます。
人との関係も、どこか似ています。
大切な人には幸せになってほしい。
傷ついてほしくない。
間違った道を選んでほしくない。
そんな愛情から生まれた思いが、いつの間にか「こうあるべき」という期待に変わってしまうことがあります。
相手のためだと思っていたことが、実は自分自身の安心のためだったと気づくこともあるかもしれません。
けれど、愛する人にも、その人自身の考えがあり、選択があり、歩むべき人生があります。
つながっていることと、自由を奪うことは違う。
そして、自由を認めることは、つながりを断つことでもありません。
相手を大切に思いながら、その人が自分とは違う道を選ぶことも認められるだろうか。
相手を変えようとするのではなく、まず、その人をありのままに見つめることはできるだろうか。
オラクルノットの結び目を、一つひとつ重ねていきます。
紐は石を包み、支えながら、ひとつの形をつくっていきます。
その結びが、何かを閉じ込めるためではなく、それぞれの存在を生かすためのものであるように。
「私は、愛する人を自分の思いどおりにしようとしていない?」
結ぶことと、縛ること。
結び目は、適切な力加減がなければ美しく形を保てません。
緩すぎれば崩れてしまう。強く締めすぎれば素材を傷つけることもある。
人との関係にも、そんな距離感が必要なのかもしれません。
「自由を認めることは、つながりを断つことでもありません。」
「縛らない」ということは、放っておくことでも、無関心になることでもありません。
相手の自由を尊重しながら、必要なときには支え合う。
その違いを忘れないために、二つ目の問いを記していきます。
第三の問い|私は、自分自身を縛っていないだろうか?
一本の紐を結ぶとき、そこには適切な力加減があります。
緩すぎれば結び目はほどけ、強く締めすぎれば、素材を傷つけてしまうこともあります。
人との関係にも、同じようなことが言えるのかもしれません。
けれど、私たちが知らず知らずのうちに強く縛っているのは、他の誰でもなく、自分自身なのかもしれません。
こうあるべき。
こうしなければならない。
こんな自分ではいけない。
いつから、それを信じるようになったのでしょうか。
誰かに教えられたことなのか、それとも、自分を守るために身につけたことなのか。
かつて必要だった考え方が、今も自分に必要だとは限りません。
結び目をほどくことは、それまでの自分を否定することではありません。
今の自分に合った形へ、結び直すこともできるのです。
「私は、自分自身を縛っていないだろうか?」
三つ目の結びには、自分自身に与える自由についての問いを記します。
今、あなたは窮屈だと感じていますか?居心地が悪いと感じることはありますか?
これまでの結び目を大切にしながらも、必要ならば、ほどいて結び直してもいい。
そんな選択が、いつでも自分の手の中にあることを忘れないために。
「あなたは自分自身に自由をあたえていますか?」
三つの問いを結んで|静かな問いの杖
一本の魔法の杖が、ようやく形になりました。
ザンビア産の大きなスモーキークォーツ。
その内側に見られる、黒い柱状の鉱物。
薔薇色のコバルトカルサイト。
そして、一つひとつの問いを記したオラクルノット。
異なる素材を組み合わせながら、三つの問いを結びました。
第一の問い
「私は、何を否定しているのか?」
自分の中にある弱さも、理解できない感情も、誰かとの違いも。
すぐに変えたり、消したりしようとする前に、まずはその存在に気づくこと。
第二の問い
「私は、愛する人を自分の思いどおりにしようとしていない?」
結ぶことと、縛ること。
愛することと、相手の自由を奪うこと。
その境界は、私たちが思っている以上に繊細なのかもしれません。
第三の問い
「私は、自分自身を縛っていないだろうか?」
誰かの期待や、社会の常識、いつの間にか自分に課していた「こうあるべき」という思い。
それらは、今も自分に必要なものでしょうか。
オラクルノットの制作では、一本一本の紐に触れながら、結び目の強さを調整していきます。
緩すぎれば形を保てず、強く締めすぎれば編み模様が変形してしまう。でもその逆にわざと強く結んで立体感をだしたり、ゆるく結んでスペースを埋めたりもできます。
その微妙な力加減は、人との距離感や、自分自身との向き合い方にも似ているように感じます。
結ぶことは、必ずしも縛ることではありません。
違うもの同士が、それぞれの形を失わずにつながること。
そして、必要ならば、ほどいて結び直すこともできる。
そんな自由を、私たちは持っているのだと思います。
この杖は、何かの答えを与えるためにつくったものではありません。
手にした人の願いを、代わりに叶えるためのものでもありません。
ただ、日々の忙しさの中で、自分自身の声が遠くなってしまったとき。
ふと立ち止まり、自分の内側へ問いを向けるきっかけになればと思っています。
三つの問いに、正しい答えはありません。
今日見つけた答えが、明日には変わることもあるでしょう。
それでもいいのだと思います。
答えは、杖の中ではなく、あなたの中にあるのだから。
三つの問いを結び終え、一本の杖が完成しました。
けれど、問いの旅は、ここから始まるのかもしれません。
『静かな問いの杖』
Oracle konot 制作者 KINUKA

